夜明けまで15,000マイル (2004年9月〜2010年5月まで)

実録・麻雀飛翔伝〜うまいぞいや哲!



さて―。

「うまいぞいや」の歴史を紡ぐ者にとっては、
先頃起きた、余りに不可解で余りに不穏当な事件について、
やはり、書き留めておかなくてはいけまい。

そう、
あれは小雪舞い散る2月の終わり、
少々肌寒い季節のサウナサンパリオでの出来事であった。

私がそこへ出向く事になったのは、

―いつものようにいつものごとく、
―例のように例のごとく、

哲一味から、麻雀のお誘いを受けていたからなのであるが、
いざ到着してみると、はたして
哲さん、てむぞう氏、Y山氏、
いずれも豪腕著しい方々が私を待ち構えていた。

よーがす、いざ参りやしょう。

とは言え、気心が知れている方々と麻雀を打つのはホント楽しい。

あ!あるある探検隊だ!(正式名称「レギュラー」)

「ひーとりテンパイ♪1,000オール♪
 ハイッ!ハイッ!ハイッハイッハイッ!!」

おや?永井豪まで?

「9ピン切って、9ピンハニー!なっつって。」

しまった!河に中がアンコった!?

「あっ痛ーっ!中出し、三回目ーーーっ!」

などと、しばらくは談笑を交えながら、ゲームに興じていたのであるが、
いかんせん、その日は、どうにも哲さんのツキが芳しくなかった。

テンパらない。
リーチを掛けても、引き負ける。
降りたら、振る。

ツキの欠片(かけら)を拾い集めようと、必死こいて足掻いているのだけれど、
麻雀の神様から延々ソッポを向かれたままで、

―手にならない、
―裏目、裏目、

そんなドツボの状態が哲さんだったのである。

その時、彼の負け分は雄に400を超えており、
そして、そんな彼の凹んだツキを見事に取り込んでいたのが―、

てむぞう氏、

であった。

辰口町から汲んで来たと言う霊水のご利益か、
(対局中、これをずっと飲みながら打っていたのである。)
肝心な勝負所を、ことごとく制して来たのが、てむぞう氏だったのである。

勝ち分は500近い。

ところが―。

「あ!? ツモっちゃったよー。」

歴史を揺るがす大事件である盧溝橋事件が、
図らずも、たった一発の誤射から始まってしまったように、
この先、後世にまで語り継がれるであろうビッグイベントは、
こんな何気ない一言から始まった。

声を発したのは、哲さん。

手牌を覗いてみると、

「す、四暗刻(すーあんこー)ーーっ!?」

先程まで、すっかりドツボ状態を謳歌していた「うまいぞいや」のご主人が、

打ち手の執念が実ったか?
あるいは、
麻雀の神様の気まぐれか?

事もあろうに、
わずか7順目で、役満をツモ上がりしてしまったのである。

これで、

→ 哲 プラス190(そのうち役満祝儀150)

勝負事と言うのは、ホントに、おっかない。
結局、この局だけで、マイナスの半分近くを取り返してしまったのである。

けど、例え役満を上がったといえども、
マイナスは、まだまだ200以上もある。
気まぐれ天使も、そうは本格派たり得まい。

で、一同、気を取り直して、次半荘(はんちゃん)。

東2局、後半に差し掛かった所で、
てむぞう氏、何やら気色ばんでリーチを放つ。
表情を見ると、うぬ、(手が)大きそうだ。

と、そこへ、

「あ!?テンパっちゃったよーっ!?」

さっきと同様の奇声を発したのは―、

見たくもない。
顔を上げると飛び込んできた満面の笑顔、
すなわち、哲さんである。

「す、四暗刻タンキ、テンパってもうた!?」

な、な、な、何ぃっ!!!!

先程に続いて、ま、またもや役満テンパイで、
しかもなおかつ―、

ダブル役満!?

だが、何と男らしい方なのだろう。

役満テンパイを、こうも高らかに宣言してしまうこのフテブテしさとは一体!?

主は生ビールをグイっとあおると、手の中から、3ピンを1枚切り出した。

場に緊張感が走る。

恐らく、その周辺こそが本命に違いあるまい。

しかし―、

この嬉々とした声とは裏腹に、
ただ一人、ピシリと凍(い)てついてしまった御仁がいらっしゃった。

無論、
凍えた両手に息を吹きかけて、しばれた身体を暖めて、
先刻からリーチを掛けてしまっている、てむぞう氏だ。

「大丈夫、わしがツモっちゃるわい!」

なんて事を吐いていらっしゃったが、
その動揺、私ゃ、決して見逃したりしませんぞ!

すると、次順、
てむぞう氏は、ツモって来た牌を見て、しばし固まってしまった。

そして、
えーい!と言う威勢の良い言葉と共に、卓上に投げ出されたその牌こそは、

―打ち手の執念か?

す、4ピン!?

―麻雀の神様の気まぐれか?

あっと驚く大本命!!

時が止まった。

「で、出た!?」

歓喜。

哲さん。

ロンフォア、スーアンコー、タンキ。

親。

96,000点。

一方。

撃沈。

てむぞう氏。

おっちゃん、灰になっちまったよ・・・。

トビ。

▲96,000点+トビ▲20,000点+ウマ▲20,000点+祝儀▲50,000点・・・。

だが―。

「いやぁ、良いモン、見させてもらったわ!」

と言いざま、てむぞう氏は哲さんに握手を求めたのだが、
それは、精一杯の虚勢である事が、充分に見て取れる。

その表情たるや、死斑が浮き出る寸前の、まさに悲壮そのもの。

結局、

→ 哲 プラス300(そのうち役満祝儀150)

わずか30分くらいの間に、すっかりチャラ!?

いや、それどころか、
いきなりプラスにまで転じてしまった、恐るべし「うまいぞいや」の御主人、哲。

「ま、これでも呑んで元気出したまえ!」

余程嬉しかったのだろう、
主は気前良く、皆に生ビールを大盤振る舞い。

そして、
この局で、それからの雌雄も決してしまい、終わってみれば、

哲さん、チャラ。
てむぞう氏、+13000円。
Y山氏、−16,000円。
私、+3,000円。

と言う戦績。

戦い終えて、、
本日一番の勝ち頭である、てむぞう氏から、皆で焼肉をオゴって頂く展開になったのであるが、
相も変わらず、ちっとも勝者の顔ではない。

しかも、
ドンドン酒が入って、ドンドン皆が盛り上がって行く中、
その晩のてむぞう氏だけは、決して酔う事はなかった。

でもね、
私ゃ、思うに、対局中、こんな事を仰るから、
きっとツキに見離されてしまったんすよ、てむぞうさん。

「ボクはねぇ、君らと違って、頭使って麻雀してるんだよ!」

心凍らせて、てむぞう氏!
愛を凍らせて、てむぞう氏!
今がどこへも行ってしまえ、てむぞう氏!

愉快な仲間達の、愉快な物語は、これからも決して止む事はあるまい。
2005年03月06日(日) No.1388 (プログレ割烹うまいぞいや哲)

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