冷たい風が、やや駆け足で頬を通り過ぎる。
多少身震いしながらも、するりと身体を車へ滑り込ますと、
何だかふと、ぼんやりとした午後を過ごしたくなった。
海の近くのレストランで、夏に出掛けたスペインについて、
ゆるゆるとした想いを馳せてみると言うのはどうだろう?
私は、自分から湧いて来たその提案を、とても良いものだと思い込み、
まるでバーテンダーから琥珀色の液体を並々と注がれたコップをうっとりと眺める老人のように、
まるで宝箱を手にしたばかりの爛漫な目を輝かせる子供のように、
はしゃいだ。
すると、ハンドルを握りながらも、その時切り取った記憶の断片が、自然に蘇り、
道中も非常に華やいだ空気が私を包んだ。
目指す先は、そう、さながら洋食の街、神戸を思わせるかのような素敵な場所。
大人の安息地と言っても良いのかもしれない。
そして、しばらくして、ようやく辿り着いた目的地に車を停めて、
もう直ぐ冬が訪れようとしている事をしんなりと予感させるような鈍色の空の中、
私は店の看板を見つめた。
「北野食堂」
いやぁ、ついにやって来たぜ、コンチクショーーーーーッ!
デブ族オッサン科の聖地とも呼ばれるこの店は、
何でも、地元では、大層有名な食堂なんだとか。
見よ!この威風堂々たるこの店構えを!!
ホーント、イイ味を醸し出しているではあ~りませんか!
私は、非っ常にワクワクしながら店の中へと入らせて頂くと、
何ら期待を裏切る事なく、
素晴らしい!
「ジャンプ」がある、「マガジン」がある、そして、大衆食堂にはお馴染みの「美味しんぼ」がある。
ブラウン管の小さなTVは、一体いつから使ってんねん!的な興を加え、
壁に綺麗に並べられた短冊形のメニューは、まさしく昭和ノスタルジー。
で、こんな雰囲気に酔い痴れながら、私が悩んで悩んで注文させて頂いた一品っちゅうのがやね、
もう、ドッヒャーン!とオムライスなのであーる!!
ところが―。
これがまた、噂通りの凄いボリューム・・・・・。
一体、ナーンナンデスカ!?この厚みは!?
聞く所によると、オムライスにしろカレーライスにしろカツ丼にしろ、
ざっくり3合分のご飯を叩き込んで作るのが、この店のスタンダードなんだそうな。
あぁ、蕩けてしまいそう。。。。。。
とは言え―。
大衆食堂評論家の私めと致しましては、こりゃもう、果敢に挑んで行くしかない。
添えられたスプーンを右手に持ち、こんもりとした分厚い卵を威勢よく切り込んで行くと、
あらま!?
オムライスの中身が、焼き飯!?
へぇ、いわゆる普通のケチャップ味のご飯を想像していたんだけど、
どうしてどうして、
この焼き飯版オムライスも、かなーりンマーイ!
これまた、一見ありそうなんだけど意外とない組み合わせだなぁ。
と言いつつ、四十半ばを過ぎた私のようなオッサンにとっては、
あぁ、途中でお腹が一杯になっちゃったよぅ!
やっぱ、3合飯の登山はかなーりキツイ!
まぁ、それでも意地と根性で何とか完遂しちゃった勇ましさ。
絵に描いたような無鉄砲な男は、
まーったく反省する事なく、まーたもや、血迷い街道に迷い込む事になり、
すなわち–。
非っ常にオトナゲナシ!
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